[地道な研究のつながり] 教育担当からのレポート 2008

 平成20年度の美術館教育活動は、様々な実践のつながりを実感した一年でした。春の「大正ロマン昭和モダン展」は大衆アート研究の視点から美術文化の理解をとらえ直す試みでしたが、この展覧会を舞台に新しい連携の取り組みがありました。徳島大学留学生センター(現・徳島大学国際センター)と協同し、美術鑑賞を通して留学生と日本人の活動の場を作るものです。これまでの鑑賞プログラムの蓄積を活かしながら、多文化を交感し合う場としての美術館の可能性を年3回にわたって探っていきました。鑑賞者支援の考え方をあらためて熟考する機会となりました。(※1)

 夏の「アメリカ版画の今」展は、版画による国際交流を作家同士の手で長年重ねてきた「京都版画」との協同によるものです。坂爪厚生さんと斎藤修さんによるワークショップ「メゾチントと木口木版」では、版画制作のすそ野を思うお二人の熱意を強く感じました。加えて阿波和紙伝統産業会館の協力により、この西洋の古い技法に阿波和紙の魅力を活かすアイデアが盛り込まれたのも特筆すべきことです。そしてアメリカの版画工房で修行されたプリンター板津悟さんによるゲスト・トークでは、展示室の机に古い印刷物から現代作家のリトグラフや原版までが持ち込まれ、皆で頭をつき合わせて質問したり感想を交流したりする様子は、さながら彼の地の工房研修室を思わせる一味違った魅力的なひと時でした。

 秋の「未来に伝えたい」展は8人の学芸員が徳島のコレクションへの視点を語り、交流しようとする企画で、学芸員それぞれが二人ずつペアでトークを聞いていただいたのも初めてのアイデアでした。続く「京都画壇に咲いた夢」展は、徳島と京都画壇とのつながりをひもとき、見つめ直そうという企画。担当学芸員の研究の蓄積をベースにして編み出されたテーマです。展覧会の主人公である幸田春耕・暁冶親子と実際に関わりをお持ちの、京都で活躍されている日本画家の市原義之さんがゲスト・トークに来てくださいました。

 前年度から始まった所蔵作品展の催し「美術を楽しむ・わたくし流」は、音楽や舞踊など様々な分野の方の美術へのアプローチの仕方を通じて、みなさんの「わたくし流」の楽しみ方を発見していただきたいと願うものです。今年度は11月に庄野龍夫さんのリコーダー演奏が盛況の内に開催されました。この原稿の締切日の関係でご紹介できないのがとても残念ですが、3月にはピアノ・コンサート「いのちを見つめて」、能楽「『生きているわたくし』によせて」が予定されており、このプロデュースにも担当学芸員の劇場に関する継続的な研究のまなざしが活かされています。

 「こども鑑賞クラブ」ももうすぐ満5歳。忙しい時間をぬって参加してくださる子どもたちとお家の方に支えられながら続いてきました。最初に来てくれた1年生の「アートの名探偵」たちは、春になればなんと6年生。私たちスタッフも、置いていかれないように新しい成長を志していきます。

 新聞やテレビで何千人、何万人も参加のあるイベントを見かけると、当館の取り組みはこじんまりしているなと焦りを感じることがあります。それは正直な気持ちです。でも地道に手から手へ文化の担い"手"が伝わっていく場づくりもまた大切なことを見失うわけにはいきません。美術への友愛を思う大勢の方々ともっとつながり、共に盛り上がっていけるような、美術館教育のあり方を念じながら春からの活動にのぞみたいと思います。

(※1)この活動は次の研究紀要で報告しています。
竹内利夫・Gehrtz三隅友子・橋本智 「美術館の鑑賞支援プログラムとの連携―美術作品を通した学習の可能性―」『徳島大学国際センター紀要』第4号 2009年3月31日


徳島県立近代美術館ニュース No.69 Apr.2009
2009年4月
徳島県立近代美術館 竹内利夫