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審査員 講評<展示部門>
  

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審査員のうちで表彰式(平成25年1月27日)に出席いただいた方による講評の概要です。
○ 森山 宏昭(徳島県立近代美術館長)
 5名の審査員で喧々諤々(けんけんがくがく)の議論をいたしました。審査結果の受賞理由を順次発表させていただきます。

 まずグランプリの「あかまつみお」さんにつきましては、ダンボールという素材と日常の温かみが素直に結びついており、広く好感が持てる作風と安定感が各審査員より評価されました。本当におめでとうございました。

 つづいて、準グランプリの「石田里茉(いしだりま)」さんは、初挑戦という不安を感じながらも前向きに大作に取り組む心情が伝わる表現であることが高く評価されました。

 続きまして、チャレンジ奨励賞の「Hiro.」さんは、油絵具の力を感じる正統派絵画の魅力を評価させていただきました。
 また同じ奨励賞の「熊野世璃菜(くまのせりな)」さんは、課題も何点か見受けられますが、大作に挑んだ勇気を評価いたしました。引き続きご努力をいただきたいと思います。

 同じく奨励賞の「ひらたるん」さんは、5メートルの長さをうまく使って自分に適したふさわしい表現を行っていたということが高く評価されました。

 最後に、MIP賞の「蓮花(れんげ)くらぶ」でございますが、こちらは各所に仏画が配置されており、問答無用のインプレッションを各審査員に与えたということです。

 以上が受賞者の決定理由でございます。
 総じて見たところ、それぞれ皆さん方、選にもれた方もそれぞれに訴えるところが多くございました。これからも引き続き積極的に挑戦いただければありがたいと思っております。
 簡単ではございますが、受賞理由と簡単な評価をさせていただきました。ありがとうございました。
○ 鈴木 久人(鳴門教育大学教授)
 こんにちは、鈴木です。ふたを開けてみたら結局、全員女性だったということにちょっと驚いております。

 「あかまつみお」さんの作品は、大変身近で温かくて、でも儚いというイメージもあるダンボールに、日常を淡々と綴っていくっていうものであり、チャレンジとは少し違うかもしれませんけれども、何かすごく温かみがある、いい作品だったと思いました。

 それから、「石田里茉」さんの書です。私は絵画制作が専門なので、書を評価するというのはどうかと思うんですが、書かれた部分よりも余白のかたさがすごく抵抗感があり、絵画では、これは大変な褒め言葉なんですけれども、抵抗感のある白さがあって大変いいんじゃないかと思いました。

 あと、「Hiro.」さんと「ひらたるん」さんは、大変に圧倒的な完成度をもって展示されているので、大変良かったと思います。

 それから「熊野世璃菜」さんは、何かこれこそチャレンジしているな、っていう、すごくこう、真ん中にドカンと大きく表現するというチャレンジ精神がすごく良いなという風に思いました。

 MIPの「蓮花くらぶ」さんですけれども、これも和紙を太めの糸縒(よ)りにして、ものすごく怨念みたいなものを感じるインスタレーション、壁に展示する、という行為をしていて、いいんじゃないかなと思いました。

 今回、ほかにも僕が挙げたいなと思う作品は、「春琴(しゅんきん)と子供たち」による、やはり習字の作品で、天井まで子供たちの字が展示されていて、僕は作品を見ながら漢字という表現というのは、字という表現というのは、字という意味とかたちと両方が覆いかぶさってくるような、良い作品が久しぶりに出たなと思ったんですが、これはちょっと選からは漏れてしまいました。
 そのほかにも大変良い作品が沢山あって、これからも違ったものの見方をしていくと、もっと、ちょっとこう手を加えると、あと少し展示に気を使うとなどしたら、全然違った評価になったんじゃないかなというものもあったと思いますので、また頑張ってみてください。以上です。
○ 白井 宏治(株式会社あわわ総務部部長)
 タウン誌「あわわ」の白井です。受賞の皆さん、おめでとうございます。
 今年も非常に楽しく拝見させていただきました。エントリーされた皆さんにとっては、こういう公募展に応募するということ自体が大きなチャレンジだったんじゃないかなと思います。出展された皆さんに「お疲れさま」と「良いチャレンジをありがとう」と言いたいです。

 受賞作品のほかで、僕自身が印象に残っているものをいくつか挙げさせて頂くと、「篠原零(しのはられい)」さんの「心の卵」というイラストレーション。コンセプトといいますか試みといいますか、非常に面白いと思いました。

 あと、「アモウエミコ」さんの小さな雑誌、en-zine(エンジン)とお読みするんでしょうか、同じ本づくりをする者として、非常に楽しかったです。

 あと、本ということでは「watanabe mika(ワタナベミカ)」さんの絵本も楽しく終わりまで読ませていただきました。ありがとうございます。

 「こんどうゆみこ」さんは、昨年の受賞者だったかと思いますけれども、楽しさが溢れた画風が今年も素晴らしいと思いました。参加者の方に何かを書いていただいて壁に貼るという手法は、決して珍しくはなくなってきましたけど、こんどうさんの画風には合っていて、良かったんじゃないかと思います。昨年の受賞者展覧会の時は、たしか、ちゃぶ台を出されて、見に来た方とコミュニケーションされるという、一見穏やかなんだけど実は前衛的な試みをされていたのが記憶に残っています。楽しそうな、絵を描いていることが楽しくてしかたないという特色のほかに、見る人と関わっていこうというもう一つの独自性があったのだなと感じました。

 あと、「科技高のみんな」。LEDアートの顔はシンプルだけど、見ていてホッとするような良さがあったんじゃないかと思って、次も期待したいなと思います。

 そのほかの方のそれぞれのチャレンジも非常に楽しくて、興味深く拝見させていただきました。一つだけちょっと苦い話をさせていただくと、小さなものの集合という風な形式の作品が多かったですね。それは決して悪いことではなくて、一人ずつに、ご自身に合ったサイズがあるのだと思うのですが、ただ、そういう時には複数のもののコンセプトであったりだとか、あるいは連続するもの、または集合するものとしてのストーリー性のようなものをもう少し意識して展開していただくと、作品性が増して良かったんじゃないかなと、…その点で惜しいなと思ったものが沢山あったように思ったので、次回の参考にしていただけたらと思います。今日は本当にありがとうございます。
○ 河原崎 貴光(徳島大学准教授)
 河原崎です。今回初めて審査に参加させていただいたのですが、審査の基準というか考え方の一つに「チャレンジ」というところがあって、そこがまた難しくもあり、面白く審査に関われたことが良かったな、というのが素直な印象です。
 僕個人はメディアートという領域で作品制作に携わっているので、アート、表現というものがどうやって社会に携われるのか、問題が提起できるのか、ということをいつも考えているんですが、もう一つの芸術、表現というものの大きな役割の一つに、自分の生きている理由の一つになるといいますか、ものを作ること自体が生きていく理由となるということがあると思います。
 今回の展示を見させていただいて、そういった自分を成立させる理由の一つ、生きる糧としてものが作られているなと、拝見させていただいて非常に意義があったと感じています。

 今回、選外となってしまったのですが、僕個人としては「アモウエミコ」さんと「なる川かよ」さんと「東(あずま)常一」さんの三者が印象に残っています。
 自分がどのように社会と関わっていくのかということや、考えたことをかたちにしていって納得できるのかということが、かたちとして表れたかなと感じました。
 その中でも特に、「アモウエミコ」さんについては、zine(ジン)、いわゆるフリーペーパーですね。雑誌のようなかたちで、メディアを表現に使って、今後も流されることなく、自分自身をどうやって伝えていくかっていうことについて、工夫して制作していってもらいたいなと思っています。
○ 安達 一樹(徳島県立近代美術館上席学芸員)
 美術館の安達でございます。大体皆さん、審査員の先生方が言っていただいてしまって、いつも最後で言うことがあんまりないのですが、と言いながらまず、ちょっと辛口で。今回、受賞の方も含めて作品のオーラというか、作品の力が、出品規定の5メートル以内になってしまっている作品、要するに、(手振りを交えながら)フーッと来て手前で落ちてしまうような作品が多かったように思います。

 それともう一つは、非常に個人的なところに落ちてしまう、中に閉じてしまう作品が多くて、それぞれ魅力的ではあるのですが、「はい」って分かって、その後ちょっと広がらない。やっぱりチャレンジという展覧会の性格からすると、自分自身を出すのも大事ですけれども、また見せるだけでもチャレンジだと思いますけれども、さらに多くの人々にうったえるとかいうのがあると、いいなと思います。その点でいくと、MIP(モーストインプレッシブプレイヤー)賞の蓮花くらぶさんは、問答無用でオーラを出していたので、見て、「おおっ」というだけで賞をあげたくなったというところです。特にどうこういう理由はあまりなく、私は賞に挙げてしまいました。そういうところがよかったのかなと思います。

 その後、奨励賞が、これが実はかなり激戦でして、大変だったのですが、その審査の過程でチャレンジとは何か、どういうところをチャレンジと評価するかということについて、いろいろな意見が出たのは良かったかと思います。

 ひらたるんさんは非常に良く知られている、もう活動されている方で、今までも何回も出されているわけですが、これまではチャレンジということにとらわれて失敗してきたことが多かったようでした。今回は自分のできることできっちりまとめられたっていうのが、私は良かったと思います。大きなところを小さなシゴトにまとめられたっていうのが非常に良かったかなと思います。

 順番が後ろからになっているのですが、熊野さんは、これ意見が色々沢山出ました。将来性という点で評価されたと思ってください。ですから、現状であれが良いという風に思ったら終わってしまいますので、問題のあるところを色々自分でも考えて、審査員のみなさんも、多分、将来性ということで期待してのことだと思いますので、この賞は「次」が試される「賞」だと思って頑張ってください。

 それから次がHiro.さんですね。Hiro.さんのタイプは、チャレンジの出品作品にこのタイプの作品は少なくて、ちゃんと油絵を描こうというところで、このチャレンジという有象無象のチャレンジャーの中に来たことっていうのが評価されたと思います。作品の質もそれなりにちゃんとあったと思いますので、これからも着実に頑張っていただきたいなと私は思います。

それから書道ですね、石田さんですね。書の評価は難しいというお話がありました。私も美術展評をさせていただいている関連でいろいろな発表を見せていただいていますが、書としての評価というのは、はっきり言って分かりません。でも、何か不安な心持ちが、不安な心持ちのままオーラとなって出てきているのがよかったということで、私はいいかと思います。が、これも二度と通用しないので、一回目だけですのでよく頑張ってみてください。

 あとはグランプリですね。グランプリがあかまつさんですね。質もいいっていうことではみんな多分、点が高かったと思うのですが、私の感想でいくと無難にまとめたっていうところで、マイナス点が少なかったのかなという気がするんですね。そうだと、他の審査員の方もそれぞれこう点を入れていくと、結果的にマイナスが少ないので高得点になったと。グランプリの人にはちょっと申し訳ないのですけども、きちんとシゴトされているので、それで沢山点がとれたっていうこともあるわけですが、それ以上の広がりに何ができるかということになりますので、その辺を考えて、深めていただくと、さらにこのチャレンジ以上のレベルへいける可能性はあると思います。今のかたちで自己中心的に終わってしまうと、このレベルで終わってしまうので、そうしたら非常にもったいないし、チャレンジでグランプリっていうこともちょっと残念ですので、これからのチャレンジのためにも、さらによく考えて頑張っていただけると、ありがたいです。

 すみません、長く話してしまいましたけれども…。その他に私の個人的によかったかなぁと思う人は、染織の萩野百合子さん。このシゴトは目立たないのですけれども、多分、大変なシゴトを重ねて作っている作品だと思うんですね。ですので、その技術っていうのか、根気と技術はやっぱり頑張ったと思います。ただ、見せ方が普通になってしまって、そうするとチャレンジみたいなところではちょっと損かなぁと思いました。

 それから、科学技術高校のみんな(科技高のみんな)ですね。私は美術館を職場にしていますので、作品を毎日見ることになるわけです。日によって、点いていたり消えていたりする部分がありました。やっぱり、科学技術高校という点でいけば、安定した技術がやっぱり欲しいなぁと思いまして、ちゃんとずっと点いていたら、もうちょっと高得点をねらえたかなと思いました。

 あと、Yuriさんですね。いっぱい沢山貼りつけた人。あれも、貼りつけたのはよかったのですが、一つひとつ写真にちょっとこう、小さなちょこちょこと細工をしているような気がみえて、小さな細工がなくてもっと大きくワーッといけたらよかったかなと私は思います。すみません、長くなりましたが以上です。
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