2005年12月17日

か・え・り・み・ち

3年1組コーナーの特設展示が終わりました。なんだかいつもの展覧会の最終日とは違う気分に戸惑っています。作品を飾り、作品のメッセージが見る人へ伝わりやすいよう、少しの工夫をするというのが私たち学芸員に課せられた仕事の一つです。でも、今回のプロジェクトはモノを飾って終わり、という気にどうしてもなれません。私が関わったのは、毎日背がのびて、毎日新しいこと、かしこいこと、ずるいこと、自分が自分であること、なにもかもを覚えてはのりこえていく、アシタという存在。次の日になれば展示物は跡形もなくなってしまう、それを惜しむ気持ちがどうにも愚かでいやでした。頭ではわかっているつもりだけど。今日もまた閉店まで寒い休憩室にずっと座っていた濱口先生と、少しだけ片付けの相談をして、扉をしめました。(12月18日記)

こども鑑賞クラブ交流編 −「美術をよむ」展−


 交流会。一体どうやって? 6月に濱口先生のプランをもらってから、もう半年も経ってしまったのだ。どれほども十分な計画ができなかった悔いで一杯。正直へこんでます。だけど、停められない荷車か岩ころのように、熱々の活動をしてくれた3年1組のみんなと、びっくり応えていたいつものクラブの子たちに、心からありがとうを言いたい。
 
てんしのえほん今回の新機軸は、子どもから子どもへ鑑賞の楽しさを伝えるというプラン。クレー「子供と伯母」の前に座り、1組の子らがクレーと出会い、線と色でお話して、物語を作り、新たな絵を生み出していった体験を語ってくれる。短歌が飾られた「美術をよむ」展の楽しみ方も、知らぬ間にみんなが共感してくれたらというお膳立て。この日のために書きおろしの長い台詞回しも、もちろん暗唱で堂々たる発表でした。/ 続く天使の絵本の読み聞かせは、ゴームリーのそばの広いスペースで。雪天のためか少ないめの14名に対して、富小チームは24名。乾さん労作の絵柄違いのワッペンでペアを作りました。保護者の方もたくさん見学して下さって、展示室はちょっとした熱気。/ 少し時間も押してしまって、休憩室の見学は駆け足ですませ、後半のお気に入り探しへ進みましたが、「悩みのある人はだまされたと思って、入ってごらん」と福田君の展示案内は傑作。チラシにもらえば良かった。
 
少し緊張ぎみの前半を終えて、後半のお話づくりは「えーもっとやらせてー」と終わるのが惜しい時間不足となってしまったけど、思い思いに黄色の手帖に書き込んでいました。もちろん巻末には天使の絵本が作れるページの付録。家で天使とお話してくれるかな‥。時間の配分がきゅうくつになってしまい、初めての試みは企画側としては満点とはいえません。たくさんの子らが作ったお話を見せてくれました。恥ずかしがっていた子が初めて物語を見せてくれました。僕の絵本も見てもらいました。? 交流させてもらって一番楽しんでいたのは誰だ?
   ◇   ◇   ◇

今回はこどもワークシートも目標や手法の設定が難しく、門倉さんが苦労をのりこえてとても素晴らしいものに仕上がっていた。篠さんのさやかの唄と、1組の後藤田君のお話を楽しい映画のようにからめながら、ジャコメッティや他の作品にも展開していく豊富な中身。これだけでもクラブや団体鑑賞の貴重なエッセンスに満ちているのに、それは使わない。色々なことを悩み、工夫した、考えと思いをたくさん下敷きにして、本番へむかうこの贅沢。否、贅沢と惜しむ気持ちがピントはずれなのだろう。幾多の苦労さえ真白に埋めた一日だけの雪のステージを、いっぺんにすべり走って振り向きもしない、アシタへ飛び立つ子どもたち。先生というお仕事は、そういう場をいつも作っては見送っていく、そういうことなのかなといま考えています。

単元名:「クレーさんとお話をしながら」
授業者:濱口由美教諭
活動者:徳島市富田小学校3年1組
活動時期:2005年5月〜12月
© 徳島県立近代美術館 2005-2009