2005年10月22日

オネショの音楽

引率メモ  −「色,線,形,そして音」展−


今日のレポートは少し気がひけます。ぼくが一番やりたいこと、突っ走っちゃった記録ですから。

展示室のいちばん奥、グランドピアノの場所までみんなを連れていく。「みんなピアノの周りに集まってくれる?」 これがなかなか寄ってきてくれない。今日は変だとみんなが遠慮ぎみ。察して弾きだそうとする子の介添えをあえて制して(これには理由があります)、「みんなは歌うの好きかな?」「楽しいメロディとか悲しいのとか、音楽を聴くと気持ちや思いが動くよね」。シーン‥。そうなんです、このトークじゃだめなんだ‥楽曲の印象を言わされた幼い日の鑑賞授業が頭をよぎる。それに「歌わされる」と明らかに警戒してる‥。

「メロディ鳴らしてみるから、僕がどんな場面を思ってるか当ててみて」♪〜。「わかった?今のは山歩いてたらうわーってお花畑が広がってうれしくなった気持ち。」シーン‥。「(めげないで)じゃこれは」♪♭〜。
    げ!何弾いてんだ、この曲違うよドオシヨ‥。頭が空白になる。
    「えとね、今のは、あの…サミシクナイ?‥じゃ次は?」♪♭♭〜。
ぴあの「どかな、今のはだんだん冬になってお花もへって寂しくなってきた気持ちでした。」「‥ぇ〜‥」声が出てきた。「うん、じゃこれもっと寂しいよ」♪♭♭‥♭。
―「これ知っとるね」ってピアノ習ってる(後から聞いたけど)お姉さんが妹にささやく。うれしくなってくる、だってこれはポーランドのマイナーな戯曲の挿入曲。知ってるわけないんだから。少しずつ、当てたいモードのエンジン掛かってる気配。― 「今のはお友達のとこ行ったけど遊べないって言われて次のお友達のとこ行く時の気持ちでした」「ぇ〜〜!そんなん!!」「違った?じゃあいちばん悲しいの、寂しいと悲しいと違うよね、世の中でいちばん悲しいと思ってるの弾くよ」♯♭♪♯xx…。「きゃきゃハハハ!」「悲しい曲だよ!」「ゲラゲラ♪」「何で笑うんだよぉ!」
    弾いたのはショパンのとってもおセンチな曲のたどりびき。
    弾く前から笑ってるのが、もう二拍めから大爆笑の津波になっていく。
    通じた。みんなの心の耳が開いた。
    きっとアニメや人形劇の「ガックシ‥」の場面とか連想してるんだろな。
「じゃ聞きます、今のわかった?」「ワハハハ」「今のはオネショしてああーって思った気持ちです、みんなオネショ治った?」シーン‥(絶対治ってない奴いるね)。「僕は4年生までしました!」「げえー/うわぁさいてー!/もー治ったよー当たり前じゃん」「悲しいと思って弾いたけどオネショだからみんな笑けたのかなあ。」「ククク」「プププ」

「マジメな音楽は?」♯♯♪〜。「今のは早起きで洋服もキチンとたたんでマジメな時」「速すぎ!」(ウレシイー、批評が始まったよ)「ほんじゃあコレ!」♯♭♭♯♪♪♪〜。「今のはマジメにすごく勉強したら算数のドリルがすらすら解けた気持ち。」「もぉーそんなんー!」

    ◇    ◇    ◇

30年振りに触るグランドピアノ。さぞ緊張した顔つきでみんなを戸惑わせてしまった。ショパンのシリアスでみんなが笑うなんて夢にも思わなかった、でもそこからあの子たちの生のテンポを教えてもらった。後から考えてみたら何でもないこと。コメディアニメでもドリフでも、そうやって自分も笑ってきたじゃないか、小っちゃい時。

僕はピアノの弾き語りができない。レパートリーもない。冒頭でデタラメ弾きで絡んでくれようとした彼に、インプロで返す力があったなら。あの子たちにピンとくるメロディを何曲でも弾き分ける蓄えがあったなら、どんなに素適だったろう。現実は違う。でも挑戦してしまったんです。「音でおはよう」が言えると、とっくにピアノをやめて大きくなってから知った喜び、「色と線でおはよう」が言えると、美術館に勤めて十何年もしてやっと目が開いた喜び、それを伝えたかった。まったくもって僕の個人史的な内容に、クラブの子らをつきあわせてしまった。だから気がひけます今日のレポートは。

ええころ今日も長いですけど、続編を書きたいです。一緒に詩を作って朗読したり、オトmemoのノートで活動したり、スペシャルなクラブでした。

何弾いたか、聴いてもらえる代物ではないので、趣旨のみ申し開きしときます‥。
 お花畑(モーツァルト・幻想曲・終盤で能天気に転調するとこ)
 寂しい(つい間違って弾いた。/幻想曲の冒頭)
 冬が近づいて(バッハ・フランス組曲から・「反省」の気持ちのするアレ)
 友達と遊べない(ワルツフランソワ・カントゥール「死の演劇」の挿入曲)
 オネショの音楽(ショパン・24の前奏曲集の4番め‥のつもり)
 早起きして服もたたんで(バッハ・平均律・グノーのアヴェマリヤのアレ)
 算数のドリル(ヘンデル・調子のよい鍛冶屋)
© 徳島県立近代美術館 2005-2009