徳島県立近代美術館
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鑑賞教育レポート・吹田文明展

展示室

耳をすまして、ほら見つけたよ

―吹田さんの絵と対話する子どもたち―

一人の絵描きが半世紀にわたって追い求めた世界と、心の中から真摯に対話してくれた、子どもたちの活動をご紹介しましょう。「吹田文明展―華麗なる木版画の世界」を鑑賞した、徳島市富田小学校4年生たちのつむぎ出した詩です。  ほんの数点しかご紹介できませんが、すぐに気づかれると思います。子どもたちは言葉遊びのように擬音語や擬態語をあやつりながら、一人一人が見い出した吹田さんの絵の世界を綴ろうとしています。「耳をすまして、ほら見つけたよ」という、ごく簡単な書き込みシートを手に、子どもたちは会場をぐるぐる何周も歩き回ったり、視線をとらえた絵の前で10分・20分とねばったりしながら、魅力的な詩を自分で生み出していきました。

 驚かされたのは、子どもたちがもしかすると造形上の勘どころや絵描きの心情をこそ、鋭敏に感じとり、そこに惜しげもなく自分を重ね、真正面から絵描きさんとの対話を果たしているという点です。なぜ驚きなのかと言えば、そのような誘導や下準備などを何ら行っていないからです。授業の流れがどのようなものであったのかは、記録と授業者のテキストを載せましたから、ぜひご一読下さい。

4年生の詩より
作品
群生 1965年
ぶつぶつ
さみしいよ
つめたいよ
やめて
がりがり
おぼれる
(Y.N)
作品
伝説 1969年
バチ~ン ヒュ~ バ~ン
ぼくはある日はじけちゃった。
いたかった すごくいたかった でもすぐきゅうしゅうしてなおった
どて
ある日、落しあなに落ちちゃった。だれかがたすけてくれた。
(K.S)
作品
星と風 1972年
ドクンドクン
心ぞうの動きがはやくなる
ドカン ウィーン
ばいきんとの戦争だ
ポコポコ
やばい!! しんにゅうされた!!
(R.F)
作品
何処へ 2006年
パタパタ フラフラ パッタパッタ
はじめての 一人旅
カタカタ ガンガン
かべが しまる
ヒューン パタ
飛行 しっぱい
(M.K)
吹田文明展・見学日誌

10月4日[水] 見学

徳島市富田小学校4年1組・2組

9:30-11:30

吹田文明展・見学日誌

●見学のきっかけについて

 これらの子どもたちの詩は、ある日の展示室で絵を見ながらその場で書かれた言葉をそのまま収録したものです。 4年生たちの来館のきっかけは、1年生担任の濱口由美さんが春から長丁場の版遊びを核とした単元学習を展開してきたことです。秋に開催される吹田文明展を、学校と美術館の連携のチャンスとして見すえ、実際に9月15日には1年生たちの実に楽しい見学授業が実現しました。その面白さを広めるべく、濱口さんが2クラスの担任の先生と相談して、来館が実現したわけです。 来館に先立ってほんの1時間、「耳をすまして、ほら見つけたよ」の学習が教室で行われました。それを受けて展示室を舞台に、作品のそばに書いた詩をどんどん貼り出していく、すてきな授業を担当することができました。以下は、学芸員として担当させてもらった僕の日誌です。

●ガイダンス

会場 展示室の入口には、宙に浮かぶ惑星体を思わせる作品が2点ならんで、みんなをおむかえする。「どんなだい?気がついたところはある?」 ほんの短い時間、絵の特徴を自由に発言してもらう。続いて「星を抱くC」がならぶ場所へ移って、昨日の授業で見つけた音をたずねてみる。僕も見つけた音のクイズを出題。当ててもらう。 僕のガイドはこれが全て。作品解説や作家の経歴などは何も話さない。それでも、子どもたちの詩を読んでみると、どことなく作家自身の心情まで感じさせたり、抽象表現の特徴を、なるほどなあという言葉で受け取ったりしている。あとは、4年生でならう版画のことを知ってもらえるように、木ぎれを使った版画と、珍しい版木について少しだけクイズをして、後半の30分を「音のかくれんぼ」の活動にあてた。

●バトンタッチ

 学校の先生方の多くは、展覧会担当者による解説を希望される。展示物の説明や作家の紹介なら、そればかり調べている学芸員に聞くのがもちろん一番早い。でも今回は、いつもとさかさまで、教室の活動をバトンタッチして展示室でもやってみたいと思った。 会場吹田作品との対話のレッスンとしての、オノマトペの鑑賞遊び「音のかくれんぼ」を、先に1・2年生の見学でも行って、一人一人が持てる力を展示室で発揮する素晴らしさを確信していた。今日のプログラムは、その発想を4年生向けにアレンジしたシートを使ったもの。 絵の中に見つけた音とその正体を書き込む2つの枠が並んでいるのが1年生用のシート。4年生向けのはそれが3回繰り返されている、それだけ。濱口さんは「4年生たちは、1年生よりもっと一枚の絵とじっくり深く対話してくれるはず」。さて使ってみれば、4年生の物語構築の力、修辞の力、内面と向き合う態度を、無理なく引き出す効果、そのねらいの的確さと発想のきらめきに感心した。 作品のまわりに貼り出された読みごたえのある詩を、子どもたちどうしも興味を持って読み込んでいることが、その様子から分かる。10分程度の学芸員案内だけでは決して実現できない、鑑賞学習の姿を見た(作品学習ではない!)。

●ルール

会場 ガイドの経験としても僕は学ぶものが多かった。活動のめあては絞られている。「どの子にも能動的な姿勢が生まれ、創造性を伸ばしていけるような活動」というのが、そもそも濱口案に根ざしている考えだ。いつも短いガイダンスの中で、つい元気な子や気のきいた発言ばかり期待してしまう自分の悪い癖に注意しながら、今日は何をするのか、ルールをみんなで確かめることができる導入に気をつけた。日頃、来館してくれた子らに僕は「またとない機会だからがんばろうね」と声掛けをしてしまう。でも今日は違う。「みんな、もうやり方知ってるもんね」。

●ここに教室がある

 いよいよ、自由に周遊して鑑賞の詩作をする時間。リラックスして絵を探している目は真剣。ふざけてよいとリラックスしているのではなく、真剣に選んでよい場が保障されているからリラックスしているのだと感じる。立ち方、眺め方、身をかがめて書き込む姿。教員でない僕にだって、その真剣さはすごく分かる。 僕ら学芸員は、大人向けに構成された展示を、子どもたちにも一通りは納得させることについこだわる。子どもたちだって会場全体を攻略したい気持ちはあるのだけど、その学年なりの学習として、そして将来にわたって思い出として持って行く経験として、見学の意味を子ども中心に考えるなら、僕らはもっともっと「教室の都合」に即したプログラムを実践して間違ってはいないと思う。方法論の整理も受入体制の充実も甘い見通しを持つことなどできないけど、ささやかなこの感動をみんなに伝えたいな。 (竹内利夫)活動シート

 

徳島市富田小学校4年1組・2組
教室での授業(担当・濱口由美)
平成18年10月3日(火) 各クラス 45分授業
テキスト
 
美術館での授業(担当・竹内利夫)
平成18年10月4日(水)9時30分~11時30分
(吹田文明展を各クラス55分、所蔵作品展と交替で鑑賞。)
テキスト
鑑賞遊び「耳をすまして、ほら見つけたよ」を中心とした活動

9月15日[金] 見学

徳島市富田小学校1年1組・2組

9:30-11:30

 春からの版遊びを核とした単元の一コマ。この見学がゴールではありませんが、山場となるチャンスには違いありません。
 「冒険にいこうよ、オレンちゃん!」「うんいいよ、オレンちゃん」。あの子らのために作ったオレンちゃんの冒険のお話をして見学の始まりです。みんなで「音のかくれんぼ」のおさらいをしてから、書き込みシートを使った活動に入りました。
 対話のみの引率と違って、どの子もが活躍の場をつかんでいることに感心しました。単元「きらきら☆どっきどきドン1年生」の、それこそが大切なねらいです。
 最後は自由に周遊の時間としましたが、表現意欲がとても高まっていて、画面構成の勢いや、色合いの効果などについて、自分なりの意味づけを詩のように口走る姿を目撃し続けました。1年生ですよ!ためいき。

9月28日[木] 見学

徳島市富田小学校2年1組・2組

9:30-11:30

 なんだか幸運が重なります。2年生の先生が「美術館へつれていってみようと思うのだけど」と濱口先生に話しかけて下さったそうです。もちろんすかさず「ぜひ吹田展へ!」。前時の鑑賞授業もゲストで担当されたとのこと。それとの連携により効果的な見学授業となりました。
 見つけた音を手軽なポストイットに書いて、絵のそばに貼っていきました。1年生よりもっと自分の考えを正確に説明したい。漠然と印象を話すよりも、どこがどうしてという説得意欲がむくむく伸びているのを感じました。こうして同じ展覧会の応対をしながら違う年齢の子らと出会えるのがこの仕事の面白さです。挙手発言のルールも堂に入ってきて、早い者勝ちの我こそはだけでなく、オリジナルな光る発言をしたいのだなと分かります。
 リンリン、リリリン 虹の流れる音です。僕は分からなかった。でもちゃんと当ててくれる子がいてびっくり。.

10月17日[火] 作家来訪

徳島市富田小学校1年1組・2組

10:40-11:20

授業 会期に合わせて来徳中の吹田文明さんを富小におつれしました。現場の実践の豊かさを作家にも共有してもらい、子らにとっても歩みを確かめる喜びの時間が生まれることを願って企画しました。先生方が急きょ「なかよしになる会」を準備して下さり、楽しいふれあいの授業となりました。音のかくれんぼクイズ1問目を作家が当ててくれた瞬間の大拍手は、力一杯の日々の歩みが大きな自信として実感できた喜びの声に聞こえました。
授業   吹田さんは本当にうれしそうでした。無垢の笑顔をこぼしておられた。帰りの車の中では図工科談義に花が咲いたことです。

10月10日[木] 出前授業

美波町立日和佐小学校4年32名

13:50-15:30

 次週に出会う吹田さんに親しみを抱いてくれたらいいなと思い、作品鑑賞の授業をさせて頂くことができました。
教室  濱口先生の「耳をすまして、ほら見つけたよ」の授業を、竹内なりに実践してみることにしました。展覧会を通じて生み出されたプログラムが、本当に出前していきます。教室のあちこちに19枚の掛け図を皆で貼って「吹田さん美術館」を作りました。
 友だち同士で自然に意見交換しながら書いていたから良かったです。鑑賞は初めての子らでしたが、意欲的に取り組んでくれました。休み時間もじっと絵を見て考え続けている子らもいて印象的でした。

 

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