徳島県立近代美術館
学芸員の作品解説
伊原宇三郎 二人
二人
1930年
油彩 キャンバス
162.4×145.7
伊原宇三郎 (1894-1976)
生地:徳島県徳島市
データベースから
伊原宇三郎二人
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伊原宇三郎 「二人」

吉原美惠子

 全国の公立美術館の多くが、郷土ゆかりの作家のコレクションを、その収集方針の一つに加えています。県立近代美術館も、徳島にゆかりのある作家を調査し、その作品の収集につとめています。開館時の所蔵作品展においては、収集した作品のなかでも制作年代の比較的古いものが中心となって紹介されます。
 伊原宇三郎は、1894年、徳島市秋田町に生まれました。帝展、日展などで戦前、戦後を通して活躍した洋画家で、多くの後進者を育てあげました。伊原は、その安定した画面構成の中に、質感や量感を損なうことなく事物を、あるいは人物を描き上げることにたけており、その作風は平板な写実主義をはねかえす力強さを感じさます。フランスで学んだ技術に、自国の文化の薫りを漂わせた独特の画面は、重厚で気品があります。〈二人〉は、1930年の第11回帝展に出品され、特選となった作品で、伊原の戦前の代表作ともいえるものです。
 石川真五郎は1893年、板野郡板野町に生まれました。石川は、1910年に徳島中学校(現在の城南高等学校)を中途退学して上京。黒田清輝や岡田三郎助に師事して洋画を学びました。第二次世界大戦後は帰郷して、鳴門や吉野川、剣山など、ふるさとの風景を多く描き残しています。
 廣島晃甫は1889年、徳島市の生まれです。廣島新太郎という名で、版画家としても足跡を残していますし、晃甫の名で日本画家として華々しい活躍をしました。
 同じく日本画家の日下八光は1899年、那賀郡羽ノ浦町に生まれています。日下は日本画における画業のほかに、装飾古墳の研究者として有名です。
 宮本光庸は1913年、徳島市生まれの彫刻家。文展、日展で活躍し、審査員もつとめました。
 1926年生まれの徳島ゆかりの版画家である吹田文明は、伝統的な木版画の技法に独自の工夫を加味して、木版画の表現の可能性をひらき、内外で数多くの受賞歴があります。
 これらの作家のほかにも、洋画家の山下菊二、菊畑茂久馬、日本画では市原義之、版画の一原有徳などの作品も収蔵しています。
 また、1874年に徳島市助任町に生まれた三宅克己は、日本の水彩画の歴史に欠くことのできない存在です。美術館では年明けの特別企画展として三宅を中心に「みづゑのあけぼの」を開催することになっています。

(「広島晃甫」の人名表記を「廣島晃甫」に改めました。)
徳島新聞 県立近代美術館 04
1990年10月31日
徳島県立近代美術館 吉原美惠子