徳島県立近代美術館
学芸員の作品解説
動物 (守住家資料)
不詳
水彩 紙
20.6×27.7
守住勇魚 (1854-1927)
生地:徳島県徳島市
データベースから
守住勇魚動物 (守住家資料)
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守住勇魚 「動物 (守住家資料)」

森芳功

 本年度の所蔵作品展には、徳島ゆかりの作家のコーナーを設けました。3期に分けて日本画、洋画、現代美術を紹介していますが、所蔵作品展93-IIIでは「徳島ゆかりの洋画家」(1月30日まで)の作品を展示しています。
 出品作家は7人です。明治期から1980年代までで、日本の近現代の歴史と重なる幅を持っています。
 守住勇魚は、その中でも最初に登場する作家です。彼は、れい明期の日木の洋画家の一人として記録されている存在です。1854年(安正元年)徳島藩の絵師、貫魚の二男として生まれています。上京し彰技堂面塾で洋画を学んだ後、1876年(明治9年)、わが国初の本格的な西洋美術の教育機関、工部美術学校に第1期生として入学します。イタリア人の画家フォンタネージの指導を受け、浅井忠、五姓田義松、山本芳翠らとともに日本の近代洋画を切り開く大きな力となっていきます。
 勇魚が残した初期の作品の中には、教室でのデッサンのほか、多くの風景画があります。例えば、展示作品の一つ「滝のある風景」もそうですが、これらの作品からは、西洋画法が教えてくれた、物を写実的にとらえることへの新鮮な驚きが伝わってきます。しかも、彼は若々しい情熱で、日本の風景をとらえようとしたのです。勇魚だけのものではなく、当時の人たちが、日本の伝統とは異なる西洋美術にひかれた時代の感性とつながるものなのです。
 「動物」も写実的に描かれた1点です。ただしこれは、彼が自分の目で現実の風景を直接とらえた作品ではありません。西洋の石版画を参考にしたもので、高橋由一など、当時の画家が行っていた方法によるものです。面白いのは、西洋への旅行を経験していない画家が、西洋の風景を印刷物をもとにして描くと言うことです。まだ見ぬ西洋へのあこがれを高める行為だったのかもしれません。
 展示替えを含め5点の出品ですが、これらの作品を比較して見ることで、明治の若手洋画家の心に鑑賞の心を重ねてみるのも興味深いことと思います。
徳島新聞 美術へのいざない 県立近代美術館所蔵作品〈18〉
1993年11月30日
徳島県立近代美術館 森芳功