森 芳功

徳島徳島県立近代美術館 企画交流室長



  

このたびは、受賞本当におめでとうございます。近代美術館の森です。 他の審査員の方のコメントと重なるところがあるかもしれませんが、私の感じたことをお話ししたいと思います。
まず、グランプリを受賞された、「S.A.Ramsay(エス・エイ・ラムジー)」さん。 紐自体にはやわらかなイメージがあるのですが、その雰囲気を生かし、固い構造も隠しながら壁から人の形を浮きあがらせる。その意外性に惹かれました。しかも紐は、1本1本が「家族」「maney」などのカードと繋がっています。そこには、自身をつくっているものと縛っているもの、二重の意味が込められているのでしょう。色々と想像をかき立てるところがあると感じました。 ラムジーさんは、一次審査でトップ、二次審査の投票でもトップという堂々の成績でグランプリを受賞されました。

準グランプリを取られた「穴山千代子」さん。 織りの作品です。昨年は撚った和紙による作品でした。今年は太い毛糸を用いるなど、異なった世界を見せてくれています。審査員の鈴木さんも指摘されていたように、真ん中に飾られた作品は、春を待つ絵画的イメージがありますね。3点の作品の配置もシンプルで綺麗だと思いました。

奨励賞の「尾田稔子」さん。 尾田さんは、毎回、果敢に新しい表現に挑戦されている方です。今回は、木の破材を白く塗り、紙などをはったり、鉛筆で線を引いたりしたものを壁に並べています。たまたまあった破材の形や木目を活かし、偶然そこにあったものと意識的表現の兼ね合いによって、おもしろい味わいを出していると思いました。それが連なる構成もいいですね。

奨励賞の「伊丹直子」さん。 伊丹さんは、今までかまぼこ板に描いてこられました。しかし今回はそれに加え、木の箱の内側に描いたり、絵に淡い紙を貼ったりするなど、新しい挑戦をされている。それだけに課題が感じられるところもありますが、果敢に挑戦するそのチャレンジ精神がすばらしいと思いました。

奨励賞の「まるおかあきこ」さん。 鳥の羽を四角い枠に指し、それが連なった作品です。見ていると鳥の羽が、描かれた一つの平面作品のようにも見えてくる。不思議な感覚になってきます。私は、そこに鳥の命を暗示する透明な存在感を感じました。四角い枠が連なっているところは、命の循環と見ることもできるかもしれません。見る人の想像を誘うような、表現の深まりが出てきたのではないでしょうか。

MIP賞の「s0gno (ソーニョ)」さん。 近年、各地の美術館で、障がいのある人も楽しめる鑑賞の催しが行われるようになってきました。徳島県立近代美術館も積極的に取り組んでいる分野です。しかし、sOgnoさんの作品は、そのような教育的な取り組みの手段としてではなく、表現としてその可能性を追求しているんですね。目の見えない人と、健常者のコミュニケーションを双方向ではかり、それを表現にしようとする試みが注目されました。

審査員のなかでは毎回、チャレンジとはどのようなものなのか議論になるのですが、今回は、ジョギングが一つの例にあがりました。ジョギングは多くの人ができるトレーニング方法ですが、毎日続けるのは簡単でありません。ですので、続けること自体がチャレンジとなります。しかし続けていくと課題が見つかり、質の深まりやこだわりが得られる場合があります。今回の受賞者のなかでは、地道に続けてこられた、穴山さんまるおかさんがそれにあたるのかなと思います。
今まで自分がやったことのない表現、世の中の人が見たことのない新しい表現を目指すのも当然チャレンジとなります。S.A.Ramsay(エス・エイ・ラムジー)さん尾田さんがそうですし、s0gno (ソーニョ)さんの作品もそれに当たるのでしょう。新しいことを試みるとき、蓄えてきた技術や以前の考え方は通用しませんので、新たな課題を解決しなければならなくなり、自分の殻を破る必要もでてきます。 もちろん、継続するチャレンジと新しいチャレンジは、簡単に区別できないところがあり、混じり合あう場面も少なくありません。そういう点でいうと、伊丹さんがここに入るのかなと思いました。

さて、このチャレンジ芸術祭に出品された方は、いろいろなところで活躍されているようです。昨年は、出品者の方が韓国で行われた展覧会に招待されたという話を聞きました。今回受賞されなかった方も、作品のよさを誰かが見てくれているかもしれません。みなさん、是非是非これからも頑張っていただけたらと思います。 ありがとうございました。