徳島県立近代美術館
周辺マップ | バス時刻表 | 文化の森施設案内
図録の販売について | 吹田文明展図録
学校のページ | 学校メニュー | 観覧料免除申請書

鑑賞教育レポート・吹田文明展

会場

かくれんぼするもの よっといで!

濱口由美

 「私の青は、『藍の色・阿波の色である』と言われたことがある。」ふるさとでの展覧会で、そう語ったのは作家の吹田先生。それならば、私は吹田作品のなかに、「ぞめき」を感じたのかもしれない。阿波踊りが終わった後、かげろうのように町を覆うあの「ぞめき」である。わたしは、子どもたちと吹田作品の関わり方を、迷うことなく「音」※に求めていこうとしていた。
   ※ここでいう「音」とは、オノマトペや擬態語など感覚的な音を意味している。

 吹田作品を鑑賞対象とした四年生図画工作科「耳をすまして、ほら見つけたよ」は、「吹田先生の絵の中には、いろんな音がかくれているよ。」と投げかけた一年生の「音のかくれんぼ」の鑑賞活動から連動させたものである。
  「音のかくれんぼ」をしながら、吹田作品と遊んだ一年生たちは、期待どおりたくさんの音を見つけていた。その中には、作品主題を見ぬいたかのような、音やこの時期の子どもたちにしか聞くことができない音があった。一年生たちが鑑賞遊びのなかで見つけたこの音を、四年生に手渡すことから吹田作品鑑賞のおもしろさを伝えてみようと導入を考えた。
  一年生からのバトン作品として提示したのは「星を抱くC」。作品と対面するやいなや、四年生たちは自由に鑑賞をはじめる。それだけでも十分すぎるくらいの熱気ある鑑賞活動であるが、全ての子どもたちの活動を生み出すために本時の活動目標へと展開を進める。
  「この絵にかくれていた音を一年生たちが見つけてきたのだけど、どこにかくれていたのか先生には難しくてわからない。みんなでその音の正体をつきとめて」と鑑賞遊びに誘う。すぐさま「よっしゃあ」との心強い返事がかえってきた。
  一年生が見つけたオノマトペのひとつめ「ふわぁ さらさらさら」を板書する。これだけのことで、最初の自由鑑賞とはあきらかに絵の見方が変化していくのを感じた。そして、一年生の思いと吹田作品を繋げようとする真剣な眼差しのなかに、他者の考えを受け入れることで自分の視界を広げようとする度量が育まれていることに驚いた。そしてそれは、四年生になってからの子どもたちの確かな成長を実感したうれしい瞬間でもあった。
  絵の中に音の隠れ家を見つけては、その正体を言葉に置き換えていく、「耳をすまして」「ほら、見つけたよ」。この活動を三度繰り返し、できあがったのが次の詩である。

    ふわぁ さらさらさら
         新しい星 オレンジの砂
    しゃららん たんたららん
         星の鈴 砂でダンスする
    がちがちがち
         岩石のステージ ダンスがはじまる
          (四年二組の子どもたち作)

 この鑑賞遊びのおもしろさを実感し、そのルールを理解した子どもたちは、自分でやってみたいと、もう次の活動へ期待をふくらませた。
  準備しておいた8枚の吹田作品のコピーを、教室中に展示して「にわか美術館」ができると、「耳をすまして、ほら見つけたよ」の鑑賞カード片手に、さっそく吹田作品との鑑賞遊びがはじまった。いつ見ても、絵と自由に対話する子らの姿は本当にいきいきとしていて楽しそうである。楽しそうなのは子どもたちだけではなかった。四年生の担任の先生方も一緒に遊んでくれている。(一組の子らにペンネームをはやらせたのも、〝おやじ先生〟・・・だよね。)
  いつのまにか、あちらこちらの絵から「ぞめき」が飛び出し、教室が吹田ワールドに染まっていった。

 活動のまとめに、翌日の美術館見学は、今、遊んだ作品が全て展示されている「吹田文明」展の鑑賞活動であることを知らせた。そして作家の吹田先生は、徳島出身の版画家であることを告げると、子どもたちから驚きと親しみの「ぞめき」がおこった。
  そうだ、四年生の子どもたちも吹田先生も同じ阿波っ子なんだ。吹田先生のように、大海に出航してもその源流は、このふるさとに注がれた天水であることをいつまでも忘れないでほしい、そんなことを願いつつ、明日の活動へとつないだ。

©2006-2007 徳島県立近代美術館