徳島県立近代美術館
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吹田文明展 華麗なる木版画の世界

kougu

展覧会メモ:
吹田文明展をひかえて

竹内利夫

 

※写真は昭和30年代から愛用のドリル。数々の作品を生みだしてきました。壊れた所もありますが、現役だそうです。

 いよいよ4月のオープンをひかえて「吹田文明展」の準備が進んでいます。作家現住地の世田谷美術館と(4月22日から)、故郷の徳島(9月2日から)で共同開催される展覧会について、速報レポートします。
 
 このたびの展示では、輝かしい過去の受賞作や近年の代表作に加え、小学校教師時代の図工科研究に果たした先駆的な業績、またその時期に新しい木版画の世界をどん欲に模索した頃の作例など、作家の全貌をこれまでにない規模で一望します。なにはともあれ、アトリエに何度もお邪魔して吹田さんからお話をうかがい、それに貴重な活動記録をいろいろと拝見することを続けてきました。英語版で海外にも紹介されることになった、版画指導書の先駆けである『たのしい版画』。若き日の作家教師の熱血ぶりがタイムカプセルのようによみがえった、学研映画受賞作品の発見(もちろん上映します!)。どうぞご期待下さい。
 
 ところで、学芸員として一人の作家さんのワンマンショーを担当させていただけるというのは、テーマ展や名品展を企画する時とはまた違った、格別の時間を過ごすことになります。過ごさざるを得ないのです。目下、私は過去の記事や年譜のまとめの作業をしています。年譜をたどってみれば、全国でも先進的な版画教育に吹田さんが邁進したのは昭和30年代初頭。今は昔この国が高度経済成長の時代へと歩みを速めていった時代でした。作家として華々しいデビューを果たし、小学校から大学へと移動してからも作家吹田文明の歩みは、現代版画と教育の二つの軸がクロスしながら骨太い跡を刻んでいきます。
 
 そんな重い作家の歴史を、ちょっとインタビューしたくらいで分かった気になったとしたらそれは危険なことです。実際、知っているつもりだった作品も、調査を重ねながら、またパートナーの世田谷美術館の村上さんと作品選定をしながら、一層見方が深まり新しい発見をしました。版画というのは、技術面でのアイデアや発見が次の創作に結びついていく要素がとても大きい分野です。若き日の大量の作品を手にとって眺めながら、ふと創作に没頭する作家の時間がそばをよぎる、そんな想いに何度か出会いました。
 
 「同じことを反すうしているつもりだった。」作家の言葉です。作品はいくつもの変身、転機をくり返し、テーマも手法も変遷しているのですが、作家本人はそのように感じていたと。ちょっと言葉にできないような感動を覚えた瞬間でした。[つづく]
(徳島県立近代美術館 主任学芸員)

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